• ペンギン・ハイウェイ

    2018年夏、音楽を手がけた映画『ペンギン・ハイウェイ』が公開されます。僕にとって長編アニメーション映画の仕事は初めての機会でした。

    いったい、どんな音楽を作ったら良いのだろうと、戸惑いではなく冒険を前にした心持ちで、昨年の夏くらいから構想を練ってきました。今でも忘れられませんが、初めて会ったときの石田祐康監督は、まるで小学校時代の友達のようで、会った瞬間に、これから一年がかりの夏休みが始まると思ったものでした。

    あのゴム毬のように柔らかく、跳ねまわるような視野を持った石田監督の世界にどんな音楽を作っていくか、それを考える日々はとても楽しかったです。監督は音楽をとてもよく知っています。最初の打ち合わせで、監督は僕の音楽の「古きを知る」という部分を正確に捉えてくれていました。一方で、話をしていく中で、その中心に「優しさ」があることに気づきました。これはもちろん、『ペンギン・ハイウェイ』という作品世界にとって大事だと思いますが、次第に、監督自身のアニメーション作品への姿勢の端々に感じるようになりました。

    こうして46曲まで振られた楽曲番号にとりかかるようになります。とにかくゴム毬だから、きっとなんでも大丈夫だろうと、僕自身が興味のある様々な手法で音楽を作っていきました。二管編成の本格的なオーケストラで書くことも初めてでしたから、楽しくて仕方ありません。同じ人数のミュージシャンがいるなら全員が口笛を吹いたほうが面白いんじゃないかと、僕は元来ひねくれていますが、今はオーケストラというものを、その内面から考え直してみたいという気持ちもありました。しかし、一番重要だったのは、こうして手に入れた音色のパレットをもとに、自分自身の想像力を過信せず疑いながら、的確な楽想を見つけるということでした。果たしてそれができているか……ぜひ色んな方に観ていただき感想を聞くことができたら幸いです。

    今回のオーケストラは、メンバーを一から自分たちで集めることから始まりました。僕の音楽を少なからず知ってくれていたり、演奏をしてくれたことがあるメンバーを中心に本当に素晴らしい演奏家たちが集まってくれました。僕の音楽は一聴してシンプルですが、何年も訓練をしないと身につかないような、古典的な演奏習慣に重きをおいています。それを見事に音にしてくれた演奏家たちに心より感謝しています。

    指揮者は根本卓也さん。本当はきっとナイーヴ(生々しい感覚の持ち主)で、フランスバロックの大家で、博識で、だけど決して偉ぶらない噺家風情なところが洒脱で大好きです。ありがとうございました。また楽譜制作においては、昨年ふとしたきっかけで再会した大塚茜さんに、多大な助言をもらいました。共通の友人で、亡くなった本田祐也という作曲家を真ん中に、3人で机に向かった時代がありました。従って祐也という天才作曲家のことを思いながら過ごした数ヶ月でもありました。寂しいというのではなく「この発想は祐也、お前はどう思う?」といった感じです。

    音響監督の木村絵理子さんはじめ、この機会を作ってくださったプロデューサーの尾崎さん、制作を支えてくださった金野さんと中島さん、プロダクションのすべての方に感謝しております。

    2018年4月
    阿部海太郎

    『ペンギン・ハイウェイ』音楽

    作曲・編曲:阿部海太郎
    指揮:根本卓也

    1st Violin:小寺里枝(Concertmistress)春日井久美子 佐藤恵梨奈 寺島貴恵 雨宮麻未子 須原杏 地行美穂 天野恵 大槻桃斗 西方美幸
    2nd Violin:須賀麻里江 竹内愛 竹田詩織 河野由里恵 浅井眞理 水野紗希 山本理紗 小林明日香 坂元愛由子
    Viola:三品芽生 島岡万理子 大辻ひろの 樹神有紀 千原正裕 多井千洋 三谷陽子 小林知弘
    Cello:越川和音 林はるか 福井綾 和泉景子
    Contrabass:木幡奈緒美 三上晶子
    Flute, Piccoro:羽鳥 美紗紀 関聡子
    Oboe:小山 祐生 高橋舞
    Clarinet:篠塚恵子 倉内理恵
    Horn:嵯峨郁恵 松嶋千絵
    Fagotto:中田小弥香 殿岡芽依
    Trumpet:佐藤秀徳 古土井友輝
    Tronbone:今込治 山本靖之 鯖瀬真義
    Harp:景山梨乃
    Percussion:古川玄一郎 今井文香 角銅真実
    Mandolin:葛城梢
    Guitar:中村大史
    Piano:阿部海太郎 大塚茜
    Accordion, Programming:阿部海太郎

    楽譜校訂・補遺:大塚茜
    楽譜制作:安藤菜々子

    『ペンギン・ハイウェイ』オリジナルサウンドトラック →